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日本の介護、アジアで人材争奪戦 実習生制度の意義は?ジパング協同組合

category : ニュース 2016.12.9 
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 介護現場で働く外国人が、早ければ来年度から大幅に増えそうだ。技能実習制度として受け入れる道が広がったためで、アジアの国々では人材の争奪戦が過熱。人材不足にあえぐ日本の施設も狙いを定めるが、技能や知識を途上国に移すという制度の目的とかけ離れた動きになっている。

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 11月半ば、ミャンマー最大の都市ヤンゴンの一室に日本語が響いた。

 「じゃあ言うよ。実は、まんじゅうが怖いんだ」

 20代前半の男女5人が、古典落語「まんじゅうこわい」を音読していた。オチまで読んでニヤリ。「これは笑い話ですね」と日本語で言い合った。5人は日本の介護現場で働くことをめざし、1年間にわたり訓練を受けている。

 この教室は、日系のジェイサットコンサルティング(JSAT)が昨年7月に医療団体と協力して開設。介護に特化した人材育成プログラムだ。まず適性を見るため、1カ月の座学を経て老人ホームで1カ月間の実習をする。掃除やオムツ洗いをやり切った人だけが日本語訓練に進む。「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」という日本語能力試験N3以上のレベルが目標だ。

 西垣充(みつる)社長(46)は「介護をやりたい人材でなければ、日本での仕事に疲れて逃げてしまう。きちんと育てれば良い人材が育つ例を示したい」と意気込む。

 適性試験に合格し、6月から日本語教室に通うウィーイートゥーさん(24)は日本の介護現場で働いてお金を稼ぎ、育ててくれた祖母に恩返しをしたいと希望。「仏教のクドー(功徳)にもなるし、いつか故郷に老人ホームを建てたい」と夢を膨らませる。

■ミャンマーに注目

 ログイン前の続き日本の介護現場は人材不足が深刻で、2025年には約38万人が足りなくなるとされる。東京都のある特別養護老人ホームは求人活動で人を集められず、今年度は20人確保するため人材派遣会社に1200万円を払った。別の介護施設の担当者は「技能実習生なら5年は働く。1人100万~200万円の手数料を払ってもいい」と漏らす。

 日本へ技能実習生を最も多く送り出してきた中国は近年の経済成長で希望者が減少。ミャンマーは人口5千万人超で平均年齢が27・1歳と若く、人材の送り出し国として注目が集まる。

 ヤンゴンには「CHIBA(千葉)」や「TSU(津)」など日本各地に溶接工などとして送り出した人数を掲げる事務所が点在。「介護人材募集」と貼り出す老舗の担当者は「日本の介護人材は足りないから集められるだけ送れる」とし、人集めの秘策を明かした。

 日本の施設が求める人材の日本語能力に応じて、「基本的な日本語を理解できる(N4)人材は20万円」「N3なら30万円」と、あっせん費用を引き上げる。上乗せ分を奨学金として実習希望者に渡せば、他社より集められるという戦略だ。当面は月70人の送り出しを目標にする。

 ミャンマーの認定送り出し機関は約200。この2年ほど、日本の介護施設からの問い合わせが相次ぐ。

 大手送り出し機関には昨夏、「山口県の老人ホーム用に50人以上育てられるか」と照会があった。急きょフェイスブックに「日本語ゼロから教えます。介護に興味がある人募集」と書き込むと、昨年9月だけで約40人が集まった。寮に住まわせて日本語を教えたが、日本で法整備が進まず、半数以上はしびれを切らして別の職種で日本に渡ったという。それでも担当者は「時間も金もかかるけど、介護人材を送り出せば元が取れる」と期待する。

■実質「出稼ぎ目的」制度の目的は空回り

 介護人材の受け入れでは経済連携協定(EPA)の枠組みが先行する。ただ、政府間の取り決めで資格要件もあるEPAと異なり、技能実習生の人材に明確な基準はない。途上国に人材を還元するという制度の目的も空回りしそうだ。

 ミャンマーのある老人施設の理事は「技能実習の経験者を雇いたいとは思わない。『お客様』として扱う日本と『家族』として支える私たちの介護方針は違う」。ヤンゴンの送り出し機関は「日本へは出稼ぎ目的だ」と言い切る。

 経済が発展すれば技能実習のうまみは薄れる。ヤンゴンの送り出し機関組合の幹部は「今の給与水準で介護人材を送れるのは、あと5年ぐらい」と指摘する。

 今年に入って中国を抜き、新規の技能実習生を最も多く送り出したベトナム。青森県むつ市の社会福祉法人「青森社会福祉振興団」は中部フエにある医科薬科大学と連携し、昨年10月に10カ月間の「介護人材養成コース」を創設した。介護技術指導員を常駐させ、現地で介護技術も日本語もほぼ身につけた「即戦力」を養成する狙いだ。

 「目線を合わせて着たい服を尋ねています。お年寄りだって、自分で選んだものを着たいですよね」

 11月中旬の授業。ビデオで日本人介護職員によるケアの様子を見せながら、指導員の小関博之さん(42)が尊厳を大切にする介護の心を伝えた。生徒のグエン・ディ・タイさん(22)は職員が利用者の入れ歯を取って洗う場面に顔をゆがめた。「これも介護の仕事だと思わなかった」と驚き、「でも目線を合わせるのは良い。介護をすると優しい人になれそう」と語った。

 青森社会福祉振興団の中山辰巳専務理事(64)は、ベトナムに戻った介護人材が活躍する場をつくる必要性を感じている。「外国人の介護人材をきちんと育てるルールを定め、人材の好循環を作らなければいけない。ただ安くこき使おうとする国に、人材はいずれ来なくなる」


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