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(下)「一人前になる前に帰国。育てがいない」と現場の職人 制度拡充 急場しのぎジパング協同組合

category : ニュース 2015.3.11 
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 2月中旬、埼玉県内の大型ショッピングセンター建設現場。底冷えのする空気の中を作業員が忙しく立ち回る。出入りする関係者は千人を超えるという。

 内装工事中の区画で、ベトナム人の技能実習生、ブイ・チュン・ジャンさん(25)がハンマーの音を響かせていた。ハノイ近郊から来日し、もうすぐ2年。日本人の職人と同じ指示を受け、1人で黙々と資材を組み立てていく。

 手先が器用で筋がいい、と上司の評価も高い。本人も仕事が面白いという。「ベトナムはまだまだ、若い人いっぱい。みんな仕事がほしい」

ベトナム人急増

 ジャンさんを受け入れたのは、首都圏の建設業者でつくる「圏友協同組合」(同県所沢市)。毎月15人ほどの実習生を傘下の企業に斡旋(あっせん)している。

 昨年だけで新たに21社が加入した。申し出はその倍以上あった。組合の平井勝行事務局長(35)は「どこも人が足りない。実習生のニーズは相当高い」と話す。

 組合の実習生の割合は昨年、ベトナム人が中国人に取って代わり、今では8割を占める。平井事務局長によれば、ベトナムの実習志望者の現地での平均月給はまだ2万円くらい。月給十数万円の実習生でも3人募集すれば40人前後が手を挙げる。賃金格差が縮まった中国では、3人集めるのに1カ月かかる場合もある。

■時限措置の矛盾

 建設業の有効求人倍率(平成26年)は2・84倍。建物の骨組みをつくる躯(く)体(たい)工事では7倍を超える。

 政府は昨年4月、建設業の人手不足を解消するため外国人材を活用する緊急措置の導入を決定。27年度から「外国人建設就労者」として受け入れを始める。

 具体的には建設分野の実習生に限って2年間の期限延長を認める。帰国した元実習生についても再入国して就労できるようにする。

 東京五輪のある32年度までの時限措置。名称は別だが、実質的には技能実習の拡充だ。

 だが、五輪需要の急場をしのぐためだけに実習生を使う発想は「途上国への技術移転」という制度の理念と相いれない。支援団体からは「外国人の使い捨て」と批判が出る。現場の職人も「ようやく一人前、という時期に帰国してしまう。育てがいがない」という本音が漏れる。

 
■介護現場「問題は質の担保」

 労働力不足が深刻なのは介護分野も同じ。厚生労働省は今年に入り、一定の日本語能力を要件に技能実習の対象職種に介護を加えることを決めた。制度では初の対人サービスとなる。

 介護の現場ではすでに、経済連携協定(EPA)に基づき、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国から介護福祉士の候補者を受け入れている。

 ただ来日するのは母国の看護学校などを卒業した、いわばエリート。介護施設で実務経験を積み、原則4年の期限中に介護福祉士の資格取得を目指す。

 フィリピン出身のリア・ヴァネッサ・レロンさん(27)はEPAで日本に来てまだ1年足らず。兵庫県伊丹市の特別養護老人ホーム「あそか苑」に勤めている。日常会話ではすでに支障を感じさせない。「休みのとき一日中勉強の日もある。合格して日本に住み続けたい」と意欲的だ。

 同ホームの河原至誓(ゆきちか)理事長(31)は「これから絶対的に人が足りなくなる。EPAだけでなく実習生のチャンネルも持っておきたい。問題はEPAのような質をどう担保するかだろう」と指摘した。

 
■「介護は心の仕事」

 三重県四日市市の社会福祉法人「青(せい)山(ざん)里(り)会(かい)」は、地域の日系ブラジル人を中心にすでに100人以上の外国人雇用実績を持つ。

 ブラジル人特有の明るさで、当初から利用者のウケはよかった。「日本語がまったくできない人でも、自然と話せるようになる」。同会の三瀬正幸人事室長(46)は経験上、当初の語学力の有無はそれほど問題にならないとみている。

 日系人のため多くが永住資格を持ち、在留期間の縛りがない。日系ブラジル人3世の武田美代子さん(51)はリーマン・ショック後、自動車関連工場の契約を打ち切られ、初めて介護の現場に飛び込んだ。

 派遣ではなく、正社員として雇用してくれたことが大きかった。「部品の検査と違う。人間の世話をするの。心からしないとできない、心の仕事」

 実習生には期限がある。介護福祉士の資格取得も必須ではない。そんな条件で「心」から介護を学びに来る外国人はいるだろうか。

 技能実習の見直しだけでは限界がある、と法相の有識者会議も認めている。付け焼き刃的に制度を拡充し、やがて行き詰まれば最も影響を受けるのは日本の社会に他ならない。


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