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(中)経営者変貌させる制度の「毒」 実習生縛る“裏”規則とカネ質ジパング協同組合

category : ニュース 2015.3.11 
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 研修期間中に恋愛すれば警告処分。聞き入れない者は、即刻強制帰国-。外国人技能実習生の王洪●(=女へんに亭)さん(23)は、そんな“裏”の就業規則に縛られていた。

 昨年6月27日、石川県の小松空港。王さんは必死で、自分のバッグを奪い返そうとしていた。

 王さんの抵抗も意に介さず、搭乗手続きに向かう受け入れ団体の協同組合関係者。そのまま中国行きの飛行機に乗せるつもりだった。

 「彼女、帰りたくないと言ってるじゃないか。これは『強制帰国』だよね」

 そんな修羅場に連絡を受けた実習生支援団体の高原一郎さん(63)らが慌ただしく駆けつけた。王さんを保護するまでの生々しいやり取りがビデオに収められている。

■寮では中華麺やソバばかり…

 実習先は福井県内の縫製工場だった。王さんは、日本で働けるとだけ聞き、平成23年8月にハルビンから来日した。工場では布地の裁断を担当した。手取りは月7万~12万円。「想像したより全然稼げなかった」(王さん)。

 来日前、中国側の送り出し機関に80万円近い「保証金」を取られた、という。すべて借金して支払った。寮では生活費を切り詰め、みそをとかしただけの中華麺やソバばかり食べた。まず借金を返し、中国の家族に仕送りをした。

 3年目、福井に住む中国残留孤児3世、李博さん(24)と知り合い、交際を始めた。
■「明日、帰国してもらう」

 “事件”は李さん宅に泊まり、そのまま出勤した日に起きた。突然事務所に呼び出され、外泊が規則違反に当たると指摘された。実習期間はまだ2カ月残っていたが、通訳を通じ、こう告げられた。「明日、帰国してもらう」

 入管当局への提出書類とは別に、中国の送り出し機関が押しつけた“裏”の就業規則があった。無断外出禁止、携帯電話禁止、恋愛禁止…。深く考えずに署名していた。

 李さんを通じて高原さんに相談し、会社側の言い分を記録するよう指示を受けた。翌日、小松空港に連れて行かれるまでの会話を録音した。

 関係者A「自分(王さん)が悪い。これまでも帰った人を知ってるだろうし」

 王さん「帰りたくない。ううううう」

 関係者B「涙ふけ、ふけ」

 時折、関係者の笑い声がまじった。

■途中帰国は1万人超

 王さんの事例は氷山の一角だ。富山県では食品会社で働いていた元実習生の中国人女性が、妊娠を理由に帰国を強制され、流産したとして損害賠償を求めて提訴。富山地裁は25年7月、妊娠禁止の規則を「人権侵害の不適切条項」と断じたうえ、帰国強制によるストレスと流産との因果関係も認めた。

 法務省入国管理局によると実習生の新規入国は年間約6万7千人、途中帰国は1万人超に上る。支援団体側はこの1万人の中に、本人の意に沿わぬ帰国が相当数含まれているとみる。

■人質ならぬ「カネ質」

 国際研修協力機構(JITCO)が行ったアンケートでは、実習生の15・9%が来日前に現地の送り出し機関に「保証金」を徴収されていた。実習中にトラブルを起こしたり、逃げ出したりすれば没収する。人質ならぬ「カネ質」とも呼ばれる。

 そのうえ規則で縛るのは横のネットワークを遮断するためだ、と高原さんは言う。「賃金や労働条件を外部の人間に相談されると都合が悪いのでしょう」

 日本の実習先も、実習制度の趣旨を理解せず、「安く外国人を使える」と勘違いしている経営者は少なくない。毎年実習生を受け入れている別の協同組合の代表は「3年働かせて実習生の名前すら覚えていない社長さんもいる」と明かす。

 彼らが特別配慮のない経営者というわけではない。

 「どの経営者も大抵、地域ではいい人たちだ」と話すのは、「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(東京)の鳥井一平事務局長(61)。

 しかし今の制度では、外国人を低賃金で働かせ、文句を言ったら帰国させる。それが当たり前にできてしまう。「いい人を変貌させる『毒』がこの制度にある」と語る。

 一時保護された後、いったん自分で帰国した王さんは昨年9月、李さんと結婚し再び来日。帰国を強要され精神的苦痛を受けたとして、縫製会社と協同組合を相手取り、福井地裁に提訴した。

 実習先の社長は「会社が実習生のプライベートにタッチすることはない。組合から言われて帰国手続きをしただけ」と話した。組合は取材に応じていない。

 王さんは言う。「職場に守ってくれる人はいなかった」


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