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外国人実習生「あこがれの日本」で失踪 追い詰められ…ジパング協同組合

category : ニュース 2015.3.9 
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 働きながら技能を学ぶ外国人技能実習生が行方不明になるケースが増えている。警察への届け出は2014年、過去最多だった13年をさらに更新する勢い。農業実習生として熊本県に来た中国人女性の場合、別の場所で働いていて警察に摘発され、帰国を余儀なくされた。なぜ、女性は追い詰められたのか。

 緩やかな丘に畑が広がる地区に、養鶏場だった建物がある。熊本県合志市。一昨年の夏まで、中国人女性(当時24)が農業実習生として働いていた。

 関係者の話や法廷での証言などによると、女性は東北部にある遼寧省のトウモロコシ農家の出身。中学を中退後、弟の学費や家族の生活費を稼ぐためにレストランで働いた。だが、家計は苦しかった。そんなときに実習生の制度を知り、日本へのあこがれもあって興味を抱いた。

 「3年働けばもとが取れる」。現地の仲介業者にこう言われたという。保証金として5万元(約95万円)を借り、自己都合で3年以内に帰国した際には20万元(約380万円)の違約金を払う契約も結んだ。2012年8月、鶏の飼育などができる養鶏業の実習生の資格で来日した。

 ところが、現実は違った。作業は、「資格外」の卵のパック詰め。月の手取りは時間外労働を除けば約7万円。未明まで残業のときもあったが、日本語の勉強をしながら働いた。

 9カ月後、労働基準監督署の調査で資格外作業が発覚し、養鶏場で働けなくなった。実習生の受け入れの仲介などをする監理団体の寮でいったん過ごしたが、この団体も別の不正行為がきっかけで営業停止に。「稼ぎがないまま帰国すると借金や違約金が残る」と思い、昨年2月ごろに寮を出た。つてを頼って熊本県八代市内でホステスとして働いた。

 同6月、女性は同県警に出入国管理法違反(資格外労働)容疑で逮捕された。同9月、熊本地裁で罰金刑の判決を受け、退去強制命令が出た。さらに、収容されている間に帰国への不安から床に頭を打ち付けて自殺を図った。止めに入った入管職員にけがをさせたとして公務執行妨害などの容疑で逮捕され、福岡地裁で執行猶予付きの有罪判決を受け、昨年末に帰国した。

 「だまされた気がします」。女性は熊本地裁の公判で語った。同地裁判決は、技能実習生の受け入れや送り出しの体制について「問題があったことは否定できない」と指摘した。福岡地裁の公判では、女性が自ら日本語で記した上申書を提出。日本語で「日本が好きで来た。真面目に仕事したかった」と悔しさをにじませた。

 女性が中国側の仲介者に払ったとされる保証金や違約金は、実習生の入国許可などを規定する出入国管理法の関係省令で禁止されている。女性を受け入れた監理団体の関係者は、女性が中国で払ったとしていることについて「知らない。借金をしてまで来る理由がありますか」と朝日新聞の取材に対して話した。

 女性を支援してきた「コムスタカ 外国人と共に生きる会」(熊本市)の中島真一郎代表は指摘する。「女性は人身取引の被害者として保護されるべきだ」

■「雇用の調整弁にされている」

 法務省入国管理局によると、2013年に行方不明の報告が事業所から寄せられた技能実習生(旧制度の研修生を含む)は3567人で、前年から1560人増えた。全国の警察に失踪の届け出があった数も13年が2458人と最多(警察庁調べ)。14年上半期は1717人に上り、前年同期を上回る。中国人が過半数で、ベトナム人やネパール人などが続く。

 入管などによると、高賃金を求めて都市部の建設現場や工場などに移るケースが目立つ。ブローカーを介することが多いが、携帯電話などを使って実習生の仲間や同じ国の在留者から職場の情報を得ることもあるという。難民認定の申請から半年で就労が許可される制度を利用し、実習先を抜け出して難民認定を申請するケースも判明している。

 決められた受け入れ先以外での労働は、出入国管理法違反の資格外活動にあたる。実習期間が過ぎるか失踪で在留資格が取り消されれば不法滞在にも問われる。

 行方不明者が増える背景には、労働環境が来日前に聞かされたものと違ったり劣悪だったりすることがある。「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」共同代表の小野寺信勝弁護士(札幌弁護士会)は「単純労働者として雇用の調整弁にされている」。3年の期間中は転職もできず、帰国もしづらいため、事業者には「扱いやすい」存在だという。高い寮費や手数料を取られた上に厳しい労働をさせられたり残業代などが払われなかったりするケースも問題化している。

 こうした中でも、事業者の実習生への依存は強まるばかりだ。トマト産地の八代市で、4人の中国人実習生を受け入れる60代の農家の男性は「本当に助かる。この制度がなくなったら八代のトマトは終わり」と語る。働き手がみつからないため、男性は10年前から受け入れを始めたが、トラブルに見舞われたことはなく、「制度がなくなれば規模を縮小せざるを得ない」と心配する。

 現行制度では、中小企業の団体や商工会、農協、漁協などが監理団体として受け入れの調整や仲介をする。政府は6日、監理団体などの許認可を担い、実習生への人権侵害などをチェックする「外国人技能実習機構」の新設のほか、受け入れ期間の延長(最長3年から5年へ)や対象職種の追加などの拡充策を盛り込んだ法整備について閣議決定した。今国会での成立と15年度中の施行を目指す。(籏智広太、奥村智司)

■人手不足が背景、政府は枠を広げて

 〈技能実習制度に詳しい法政大の上林千恵子教授(産業社会学)の話〉 実習生が失踪する背景には、不法就労であっても雇用を確保したいほどの人手不足に陥っている職域の存在がある。人手不足の解消が解決への道だ。日本では現在、外国人労働者を受け入れる手段は技能実習制度しかない。政府が検討しているように、受け入れ期間の延長や受け入れる職種の拡大などで枠を広げるのが合理的な選択肢だ。

■制度廃止し、人権確保した新たな仕組みを

 〈技能実習生の人権問題に取り組む指宿昭一弁護士の話〉 一番の問題は実習生が仕事を変えられないこと。資格外労働をさせられたりした実習生が告発しても、新たな受け手が見つからずに帰国せざるを得なくなる。違約金や保証金は国内法で禁止されても続いている。実習生制度を廃止し、政府間で労働力のマッチングができるような仕組みを作るべきだ。普通の労働者と同じように、きちんと人権を確保することが必要だ。


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