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介護「人手不足」を「外国人実習生=安価な労働力」で穴埋めする政府の“筋違い”ジパング協同組合

category : ニュース 2015.2.8 
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政府は、外国人労働者の門戸を介護現場にも広げようとしている。厚生労働省の有識者検討会は1月26日、外国人に日本で働きながら技術を習得してもらう「外国人技能実習制度」の対象職種に介護職を加えるよう促す中間報告書をまとめた。「安価な働き手」を確保してでも介護現場の深刻な人手不足を少しでも解消したい、という「苦肉の策」でもある。しかし、高齢者らを相手に日本語で会話する「言葉の壁」が問題視されるほか、国民の生活を支えるための日本の社会保障を外国人が支えることから、社会保障制度の矛盾になりかねないという批判も出ている。

■介護福祉士よりも低いハードル

技能実習制度は、外国人の母国への技術移転を通じた国際貢献を目的としている。現在、農業や金属プレス加工、食品製造など約70職種を対象に約15万人を受け入れている。受け入れ上限は3年間だ。ここに対人サービスとしては初めてとなる介護職を平成27年度中に追加し、28年度に受け入れを始める見通しだ。

実は、介護の現場ではすでに外国人が働いている。政府は20年度から経済連携協定(EPA)に基づき、締結先のインドネシア、フィリピン、ベトナムから介護福祉士候補者の受け入れを始めている。

ベトナムは、現地で入国前の段階で、国際交流基金などが実施している日本語能力試験の「N3」の取得が必須となっている。試験のランクは最も難しい「N1」から最低の「N5」まであり、「N3」は、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる小学校高学年レベルだ。ベトナム出身の介護福祉士を受け入れている施設責任者は「コミュニケーションには問題ない。利用者や家族からの苦情もない」と評価する。

ただ、こうした成功例は少数のようで、原則4年のうちに介護福祉士の国家試験に合格しなければ、直ちに帰国しなければいけない。合格してもやや待遇が向上する程度だが、これまで3カ国で計1538人が来日。国家試験に合格して日本で介護福祉士として働いているのは203人(昨年10月時点)にとどまる。会話はできても読み書きは苦手な外国人が多く、筆記試験をなかなかクリアできないのだという。人手不足の解消には「焼け石に水」といえる。

そこで、介護福祉士の資格を必要としない外国人介護労働者を「技能実習制度」で迎えるという案が出たのだ。介護の現場では介護福祉士の資格を持たない職員も多いが、資格の有無の差は待遇で若干の違いがある程度だとされている。

それでも、入浴や食事など要介護者への介助はコミュニケーション能力が欠かせない。とりわけ、認知症を抱える要介護者の対応には高い意思疎通能力が求められるという介護特有の事情を考慮し、検討会は介護職に限り日本語能力の確保を受け入れ要件に加えた。

「介護という人の命にかかわるようなものが追加されるので、ハードルを高くしておいた方がいい」

これまでの検討会では委員から、対象職種に追加する上で語学力を含めた要件設定を求める意見があった。これを踏まえ、中間報告は当初案で、「N3」レベルを基本とすると明記されていた。ところが最終的には、実習1年目で「N4」(基本的な日本語を理解することができる。小学校低学年程度)に達するところまで条件を引き下げ、「N3」は実習2年目の条件とした。

■国内の人材確保こそ課題

厚労省の推計によると、非常勤を含めた介護職員は25年度時点で全国に約177万人。団塊の世代が75歳以上になり、介護需要が増大する37年には約250万人が必要とされるが、このまま対策を講じなければ、介護職員は約220万人しか確保できず、約30万人もの不足が生じる見通しだという。

そこで着目したのが外国人技能実習制度だ。塩崎恭久厚労相は自民党政調会長代理時代に、職種に介護の追加を含めた自民党案作成に携わり、安倍晋三政権の成長戦略に盛り込んだ経緯がある。

とはいえ、日本語能力の確保を要件とした議論の出発点は、介護分野に外国人実習生を受け入れることで、「言語の壁」が利用者に不安を与えるとの懸念に対応するためだった。日本人の介護職員の指導を受けながら、たどたどしい日本語の実習生が要介護者に寄り添い、その表情やしぐさをみて適切な介助ができるのか。「意思疎通がとれず、現場の混乱や事故を招きかねない」(自民党厚労族)との指摘は少なくない。

また、技術移転による国際貢献が目的の技能実習制度について、中間報告は「人材不足への対応を目的としていない」とクギを刺し、こう念押ししている。

「37年に250万人規模の介護人材を確保するには、国内の人材確保策を充実・強化していくことが基本。外国人を安易に活用する考えはとるべきでない」 だが、実習現場は実習生を「安価な労働力」「雇用の調整弁」ととらえ、賃金未払いなどのトラブルが多発している。言葉の壁に加え、文化的な違いから起きる摩擦や治安への影響を懸念する声も絶えない。政府も制度見直しに乗り出している。

塩崎氏は27日の記者会見で、介護職の追加について「制度への批判も乗り越えられる形でやるのが前提だ。(介護職の追加は)進めていく」と強調した。

だが、なし崩し的な介護職の追加は介護の過酷な現場を世界に発信することになりかねない。まずは低賃金、過重労働という厳しい介護職の現状を改善し、本来は担うべき日本人による専門性を高めることが先決だろう。


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