Home » ニュース » スマホ詐欺、狙い撃ちされた「乗り換えキャッシュバック」競争

スマホ詐欺、狙い撃ちされた「乗り換えキャッシュバック」競争ジパング協同組合

category : ニュース 2014.7.30 
Pocket

スマホ詐欺、狙い撃ちされた「乗り換えキャッシュバック」競争 中国人実習生らに広がった「スマホただで持ち帰れる」

昨年12月ごろから、広島県廿日市(はつかいち)市にある中国人技能実習生の寮に、携帯電話会社から大量の請求書が届き始めた。だが、実習生らはいずれも帰国して行方は知れず、支払いは結果的に踏み倒された。実は、実習生の間で帰国直前にスマートフォンを分割払いで契約すれば、支払いをせず持ち帰れるという話がひそかに広まっていた。「ただでもらえるのに、何で持って帰らないのか」と伝わっていたという。携帯電話販売店の過当競争を逆手に取った詐欺事件だった。(松前陽子)

スマホを無料で入手

 今年2月、広島県警外事課や広島中央署などは携帯電話を販売店からだまし取ったとして、有印私文書偽造・同行使、詐欺の疑いで中国籍の夫婦と、夫婦の知人で福井市の大学生の男の3人を逮捕した。

 県警によると、3人は共謀し、横浜市の販売店から携帯電話2台(計約18万5000円)をだまし取った疑い。県警はその後も、複数の販売店から携帯電話をだまし取ったとして詐欺容疑などで3人を再逮捕している。

 彼らはスマホの販売店を渡り歩き、妻の知り合いの中国人実習生らの名義を使い、分割払いの契約と解約を繰り返すことでスマホを無料で入手。それらを転売するとともに、販売店から契約乗り換え時のサービスであるキャッシュバック(現金還元)を受け、現金を詐取していた。

 販売店からの請求書は名義人の実習生らに届くが、銀行口座に残金はなく、在留期間が決まっている実習生らは請求書が大量に届く頃にはすでに帰国しており、結局、携帯会社が損害を被ることになる。夫は千葉県銚子市、妻は広島県廿日市市に住み、連絡を取り合って犯行を繰り返していた。

販売店を“はしご”

詳しい手口はこうだ。廿日市市の食品製造会社に技能実習生として勤務する妻がスマホ購入の分割払いの契約を代行。同僚の中国人女性らに住民票や健康保険証、残高100円程度の銀行口座のキャッシュカードを用意させ、夫や大学生がそれらを持って横浜市の大型量販店に出向き、同僚の名義でスマホを契約した。

夫らは同僚本人が契約したとみせかけるため、同僚を装った中国人女性を同行させ、1人の名義で3、4台を契約。その後、量販店内の別の販売店ブースに行き、先の契約を解約して新たな契約を結び、新しい端末を入手するとともにキャッシュバックを受けていた。

端末はいずれも頭金なしの分割払い契約のため無料で入手。このうち1台を同僚実習生に渡し、他は中国語のチャット(会話)サービス「QQ」などを使い国内で転売していた。これまでに契約した端末は89台(829万円分)。転売価格は3~5万円だったという。

端末を分割購入すれば、解約後も端末を所持できるが、分割払いの端末代は請求され続ける。しかし請求書の山が届くころには実習生はすでに帰国しており、寮には「2万4710円」「1万1926円」など月別請求書約180通が残されていた。

無料で端末を手に入れた実習生らは帰国後、中国国内で回線契約を結び端末を使用するか、転売している可能性があるという。

背景に乱売、安売り競争

 携帯の販売店を渡り歩き、転売とキャッシュバックで多額の現金をひねり出す詐欺事件。こうした犯罪が起きる背景について、携帯電話事情に詳しい青森公立大学の木暮祐一准教授(モバイル社会論)は「携帯電話の販売と通信回線が同一なことによる販売店の乱売、安売り競争がある」と指摘する。

 平成25年9月にNTTドコモがiPhoneの販売を開始後、各社の競争が熱を帯びて乱売状態となり、会社間乗り換えによる1台数万円のキャッシュバックがこれに拍車をかけた。このため契約の際の審査も甘くなったと指摘され、中国人実習生らには「スマホがただで持って帰れる」と伝わっていたという。

 24年以降、中長期滞在の外国人には身分証明書代わりの在留カードが発行されており、カードには在留期限も書かれている。しかし、販売の際にそうしたチェックが行き届いていたとは言い難いようだ。技能実習生を預かる監理団体の理事長は「在留カードで確認さえすれば、在留期限が分かる。何で帰国直前の人に2年間の契約を結ぶのか。ある意味、犯罪を誘発しているのと同じだ」と販売店への不信感をあらわにする。

中国人実習生の罪は?

 中国人技能実習生のスマホ持ち帰りは広島県内の他地域でも判明しており、実習生を受け入れているある水産加工会社の男性社長は「うちの社と県東部の会社にいた5、6人が帰国したら、彼らあてに40台約240万円分のスマホの請求書が来た。慌てて中国の受け入れ団体に本人らを探させ、払わせた。しかし、実習生が見つかるケースはまれ」と振り返る。

 社長は「彼らがスマホを大量に持ち帰っているのは監理団体では知られた話。うちの子には『犯罪だからするな』と注意していたし、携帯電話の販売店にも、電話で注意していたのに販売店は動かなかった」と憤る。

「あの子たちは持ち帰るのを悪いと思っちゃいない。『中国じゃ絶対、そんな売り方しない。日本人は何て優しいんだ』と話していた」とも。

捜査関係者は「厳密には、中国にスマホを持ち帰った技能実習生も罪に問えるかもしれないが、現実的には、向こうに帰られると手が出ない」と話す。

販売店の責任は?

一方、販売店はこうした犯罪にどう向き合うのか。同県内にある携帯電話販売店では昨年11、12月ごろ、複数の中国人実習生がスマホを契約する姿が目立った。

店員は「そのころは在留期限の確認は、会社から言われていなかった」と明かす。半年前からは、在留カードなどで在留期限を確認するようになり、期限が1年未満の人は一括全納販売にしたという。だが、今も「乗り換え0円」の広告が、この店にも隣接の店にも貼り出され、競争の激しさを物語っている。

携帯電話3社は取材に対し、いずれも「外国人の未払い数が増加しているかどうかは明かせない。本人確認は以前から厳格にしている」としている。しかし、実習生による同様の「スマホ詐欺」は岐阜や愛知でも発生。在留カードの偽造も大阪や東京で起きている。捜査関係者は「同種事案はどこでも起こりうる」と警戒している。


コメントフォーム

Copyright(c) 2014 ジパング協同組合 All Rights Reserved.